happy birthday
二部と三部の間。ラジオ塔、なるものが首都テッペリンにできて、地上でも音楽や声の波が流れ始めた。…のはずいぶん前の話しで。今ではもう遠くの村や離れ小島にいても首都の放送が聞けるし、だいたい最近の話題はどちらかといえばテレビに移ってきている。俺が思うに、そろそろ色つきのとかもでるんじゃないだろうか。
まあともかく今日はそのラジオ開通何週目か記念!だそうで。総司令には立ち会う義務がありますので、とかなんとか言って、しかめ面をしたロシウが昼ごろラジカセを持ってやってきた。
「今日はラジオ開通三周年だそうです。総司令にも是非にと」
「へえそうなんだ・・って誰が?」
「関係者の方がです。」
「かんけいしゃ・・・え、なんでおれ?」
「とりあえず今日一日はずっとラジオをつけておきますから、ぜひ一緒にお祝いしてください」
早口で、(特に最後のほうを)棒読みしたロシウはそのままさっさと部屋を出て行ってしまった。・・別段仕事の量はかわらないし忙しいしで、だからラジカセはそれきり放置だ。
どうしろっていうんだ、これ。
一応の業務終了時間が近づいたころにゾーシィがやってくる。なにか受け取る書類でもあったっけとぼんやり眺めているとどうやらそうじゃないらしく、なにやらつらつらと口上を述べた挙句に「仕事、はかどってっか?」と聞いてきた。机の上には書類が山積み。今日のノルマのうちまだ半分も終わっていない。
「見てのとおり。今日も帰れそうにないよ」
というと
「そうかそうか」
ってやけに嬉しそうにうなずいた。変なの。
それから、いかにも偶然、というように机脇のラジカセに触れた。
「おっまえ、仕事中にこんなもん聞いてんのかぁ?ロシウに怒られんぞ」
「えー。だってそのロシウが聞けって言ってきたんだよ」
「ほんとかよ?」
「今日は開通三周年記念らしいよ。だから」
そういうとゾーシィは顔をうつむかせて肩を震わせた。「三周年記念ってなんだよ!か、可愛い奴だなロシウも」とかなんとか呟いているのが聞こえて、シケモクがゆらゆらゆれる。なんのことだろう。
笑いのおさまったらしいゾーシィは俺に向き直ると、よし、とかなんとかいいながらラジカセのチューナーをぐるぐる回し始めた。眉をひそめてチューナをまわし、それから小気味よい音楽がかかっている場所でとめる。
「え、なになに?」
「とりあえずお前、この局番をずっと聞いとけ」
「なんで?」
まあまあいいから、とニヤリと笑いながら、ゾーシィは出て行った。
日常は忙しく流れていく。今日が何曜日で、何月の何日だなんてこと、実はほとんど覚えていない。サインの時に気を使うくらいで、ほとんど日付の感覚なんてオレにはないんじゃないのかなと思う。いつのまにか暑くなっていて季節が変わったことに気がつく。朝起きたら寒くて、もう冬なんだと思う。だからオレがわかるのは四季の移り変わりだけだ。春が来るたびに、ああ一年すぎたんだってふと思うくらい。
ずうっと暗い土の下にいた。暗い穴倉の中で、それこそ季節も天候も曜日という感覚もなく、大雑把な一年という周期しかなかった。ただただ今日の次に明日があって、明日の次にあさってがあって、そのずっとずっと先に終わりがあって。そういえば記念日とか誕生日とか、一応あるにはあったっけ。でも父と母が死んでから祝ったことがない気がする。ないな。
さて書類だ。ペンを持ってレポート2、3枚に目を通したころでロシウが入ってきて、机の山が一つ増える。
つくともなしにため息をついた時、隣のラジオが騒がしくなった。気持ちよくながれていたロック調の音楽が途切れて、少しあわてた感じのアナウンサーの声が入る。『ただいま、ええと・・え?ちょっと待ってください・・あ、ちょっと!君!』
ザザザーとはいる雑音。マイクの遠くで声がする。『・・・キッド、アイラック!のっとりごくろーさん!』『あとはオレ達にまかせろよな!』
・・・あれ。なんだこれ。
背後から「あんの人たちは!!限度というものがあるでしょう、限度というものがっ!!」というロシウの声を押し殺した呟きが聞こえてきて、振り返ろうとした途端
『はーい!臨時のラジオ放送だぜ!』
『よう!ちょおっと邪魔するぜえ!俺達は黒の兄弟その1と!』
『その4だい!』
・・・・えーと。
『ってことで地上の皆さん、こんばんわー!』
『お前ら、最近調子はどうだぁ?』
『兄ちゃん、無駄なことしゃべっちゃだめだぞ!』
『おっといけねえ。・・・・今日は誰かさんの誕生日っつーことで』
『特別にラジオからメッセージが言いたい人がいるみたいだってことで!』
「へ?誕生日・・・・・あ」
『・・じゃあラジオネーム料理長さん!アイツにガツンとメッセージ!言ってみろ!』
『はい!』
『・・・シモン、ごきげんよう!ニアです。言いたいことが、あるのだけれど。・・・ええと、シモン・・・私、あなたのことが大好きです!!!そして、お誕生日おめでとう!!!』
思わず椅子から転げ落ちた俺は呆然とする。
ニア?
ニアだよね?
誕生日って・・俺?そういえば今日だっけ。ってそんなことはどうでもよくて。
なに、公共の電波で実名とか、大好きとか、そんなそんなそんな・・てかなに、なんなの?ゾーシィ、キッド、アイラック!!キタンにキヤルも、皆ぐるか!・・あ。まさかロシウも!?あーもうちくしょう!!何ニヤニヤ笑ってやがるんだよ、お前!
『ごちそうつくってまってるからね』ってハートマークとばしてキタンを圧倒させながらコーナーをしめくくったニアが、可愛くて(見えないけど)可愛くて可愛くてしかたないんだよ!!あーもういいわ!!それで全部チャラだわ!!!
なんだかよくわかんないけどありがとうみんな!!
・・・はっちゃけすぎた感はにじみ出ている
*080325