ニアとシモンと、それから。
(第二十七話、帰還後)
「シモン、星空を見上げにピクニックに行きましょう」
急にニアがそう言ったから、俺は一瞬キョトンとして、でもすぐにそれはいいな、と笑った。
「昔みたいに、皆で」
「大グレン団で?」
目と目を見合わせて、それから互いにくすくす笑う。
・・俺たちは最近、何かにつけて笑ってしまう。胸の中が変に騒がしい。
楽しくて叫びだしそうで、それなのに切なくて泣き出しそうになる。
ね、シモン、とニアは笑う。
ふわふわな薄い髪が、すっと夜空に透けた気がした。
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俺とニアは、昔みたいに地べたに寝そべって、手をつなぎながら満天の星空を見上げていた。素足にさわる草がくすぐったい。吹き抜けてゆく晩夏の風が少し冷たくて、広げたマントに二人して包まる。
さっきまで楽しそうに大騒ぎしていた連中は、気を利かせたつもりか俺たちから少し離れたところに寝転がっているらしい。もう、この顔ぶれがいちどきに集まることは、ないかもしれないな。
暗闇の中に紅く長い髪がチラリと見えた。
ヨーコは地上の混乱がもうひと段落したら島に帰るつもりだという。復興プランに手一杯で、本当ならこんなことしてる暇すらないんだろうロシウ。メカニックに関しても、グラパールの建て直しと、補強対策、それから多分、新グレンラガンについても考え直さなきゃならない。ロンたちは皆休む暇もない。ギミーもダリーも、随分たくましくなった。あいつらは本当、いつも一緒にいる。
それから、・・それから・・・・後はもう、暗くてよく見えない。
けれど多分、皆いる。
「二人でよく、こんな風に星を見ましたね」
ニアが言う。
「みんなが宴会やってるときとか」
「シモンがお仕事から逃げ出したときとか」
また顔を見合わせて、クスリと笑う。
「でも、もっとずうっと前からよ」
「うん。覚えてる」
ずうっと前から、こんな風にニアと二人で空を見てきた。
テッペリン崩壊の夜。多分それが、一番最初。それから復興の宴。まだ焼け野原だった町の中で、どんちゃんさわぎをやったんだ。忙しくなってからでも、宴会や何かは結構あった。ダヤッカたちの結婚式とか、ギミー、ダリーの入隊式の夜とか、総司令就任、の夜とか。
でも俺は、あんまりそういう宴の席にでるの好きじゃなかったから。
そんなときにいつもニアは傍にいてくれて、だからこんなふうに二人して、何度も何度も夜空を見上げた。
月も星も雲にかげって何も見えないときもあったし、綺麗なまん丸満月を二人でただぽかんと見上げたときもあった。何か流星群の時期だったとかで、目の前を横切る流れ星の数を、はしゃぎながら数えたりもした。
ああ・・・・それから、
真新しい記憶。二人して見た、それこそ一面の星。あたまの上一面、それからぐるっと回って足元まで、ずっとずっとどこまでも続く、星の海。宇宙の海。ラガンにのって、二人して。
思い出す。思い出す。俺の中では、ひと段落を付けようと思っていた記憶。
お前がいなくなったこと、崩れ始めていった世界、宇宙で消えていった仲間達、平行して生きる、何も失くさない自分。
きらきらきらきら、風と一緒に瞬く星を、俺は震える指で追う。今、この暗闇の中にいるはずだった仲間が、空にいってしまった奴らが何人いるだろう。・・それから、それから・・
「シモン」
ニアがこちらにくるりと回ってくる。
俺の手を、冷たいわね、って言いながら反対側の手でそっと握る。
「私、今日のこの星空をみれて、とても嬉しいの」
「ニア」
「大丈夫よ、シモン」
何が、とは俺は聞かない。
ニアは笑って、大丈夫、ともう一度言う。
そばにいるから。
私も、皆も。
たとえ消えてしまっても、
あの星になって、そばにいるからね。
*080220