イレヴンへの忌避感情が消滅したのかといえば全くそのようなことはない。 遠くはない過去の恐怖はまだ黄色の民族全体に対する嫌悪感を私の中に持続させていたし、 それにそもそもがイレブンのせいなのだ。あの方があんなことになってしまったのも。

「じゃあスザクくんはどうなの?」と聞いてきたのは知り合いである二人の、科学者の方だった気がする。 研究に煮詰まると時々駆け込む特別派遣共同なんたら、 もとい今はナイトオブセブン専属のキャメロット艇でゆっくりとお茶を飲みながら、 そうと問われた私はそのとき一瞬きょとんとした。
「スザクくんはさぁ、いくら名誉ブリタニア人とはいえ丸っきり純粋な日本人じゃない? しかもまあ、言い方は悪いケド君の大好きなお姫様の騎士でありながら守り切れなかった憎い相手でもあるわけだ。そこんとこ、君の中ではどうカテゴリわけされてるわけえ?」

ふらふらと笑いながら、それでも全く笑っていなかった科学者の瞳はその直後、セシル・クルーミー女史による問答無用のストレートにぐらりと揺れてそのまま倒れた。
いい加減に慣れて来た光景に笑ってみせながらそうかそういう考え方もあったわねと少し新鮮に思う。そういえば彼が転校してきてから、同じ学園で生徒会として過ごしていた間も、あの方の騎士に任命された後も、彼に対する感情は嫌悪の位置からかわらなかったような気がする。逆にそれは、いまや懐かしい感情にすぎない。

目の前の粛正はまだ続いていて、いつも穏和で優しいクルーミー女史は
「冗談でも言っていいことと悪いことがあります!」
とか
「スザク君をそういう話のダシにするのはやめてください!」
とか、しっかりとした声音で言い聞かせながら既にノックアウト状態の科学者に更なる拳を加えている。ああ、頭脳が勝負の研究者はもうちょっとデリケートに扱って。はらはらしながら、スザクはこの人達に愛されているのだと思うと何故だかおもしろくなかった。
愛だなんてくだらない、いやくだらないはちょっとキツすぎるか。・・だけどやっぱりくだらない。
彼を本当に助けるのは、そんな生易しいものではないのに。


「ロイド先生」
立って呼びかければ、セシルの手はとまり、ロイドはめがねを通してこちらを見る。
「私、スザクのことそういう風には見ていないですよ。イレヴンだとか。元同級生だとか。もういいんです。そんなものは」
もういいんです。ユーフェミア様のおっしゃっていた理想や理念が、私には理解できなくても。 だって今の私は、憎むべきものを憎むだけ。そしてその矛先はスザクじゃない。
「それに、彼は大事な形見なんです。あの方の残された、ただ一つの」
笑ってみせる。
「私に残された唯一の」

あの方に向けられる内外からの卑劣な視線と音声を信じない、ただひとりの同士。
愛や友情なんて、そんなものではない。スザクは戦力で、私は能力であるだけだ。あの方の無念を晴らす為の戦力。私が戦う兵器を作り続けるかわりに。

「だからどうせなら、ナイトメアだって私が管理したいくらいなんですけどね、知識がロイド先生に追い付けば」
あいまいな顔をして目線を交わしあう二人に言えば、科学者のほうは
「そんなんだから、それだけは嫌なんだよねえ」
と苦笑いに近い声で低く零した



性別も人種も静動も。あの方の下には全て超越する。
だから、私たちをつないだのは愛や恋や情などではなく、





ただあの方への












捨てられた二人
*090413
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