戯れに頭上の枝をゆらしたら、パラパラと小さな花が落ちてきた。
下にいた二人は。というか、主にスザクが、背筋に入り込んできた冷たい花弁にうっかり「わぁっ」と奇声をあげる。面白い。可愛い。調子に乗って、枝をもつ手を強く振りあげる。
「くすぐったいって!」
「あは、変な声」
「ちょっ・・ジノ、駄目だよ!」
スザクが花を散らす腕を伸び上がってつかむ。
「どして?綺麗じゃん、それに、ホラ」
もうひと振り。
「いいかおりだ。まるで、お前みたいだな」
ふわりと柔らかい亜麻色の髪を淡い朱色の花だらけにして、スザクは平気でを聞き流す。いつものことだからへこたれはしない。だって聞こえているのはたしかだもの。
「花をちらしたら駄目だったら。そんなにはしゃいだりして、子供かい?君は」
「スザクと二人っきりの時は私、格好つけて大人ぶったりしないって決めたの」
「・・他では格好つけてたつもりだったの?」
思わず、というように吹き出したスザクを後ろから羽交い締めにする。
うん、花を散らすより、こっちの方がずうっといいな。
「雨が降るまでの命なんだ」
「何が?」
「金木犀」
スザクはジノを見上げて
「の花」
枝を指差す。
「雨にうたれると簡単に散ってしまうんだよ。こんなにたくさんある花が、一日二日で沈んでいく。水溜まりに消えた花は、もう香ったりしないんだ」
だから駄目。少しの間、だけだから。
「この時期はよく天気がくずれるんだ。長く細い雨が続く」
「夏のはじまりもそうだっただろ?そればっかりだな、お前の国は」
「そういう気候だからね」
「なるほど、だから相合い傘なんて可愛いらしいものが流行るわけだ」
他愛もないことを言ってスザクを笑わす。
「・・まるで、お前みたいだ」
「え、何が?」
キョトンとしているスザクの目じりを親指でそっとさわって、それから舌の上でゆらぐ言葉を飲み込んだ。腕を放して、勢いよくジャンプする。そのまま手の先をのばして、スザクの頭上の枝をパァンとはたく。
舞い散る、セピア色の星。
「あっ、こら、ジノ!!」
笑いながら走り出す。追い掛けてくる。
「説明したの、聞いてなかったのか!」
「あはは、スザクが怒ってる!」
声が響くのは晴れ上がった青い空だ。
今は、まだ。
星屑を掬って集めたように、繊細で小さなこの花は。
そのくせ、雨期を選んで咲いたりして。
なんだい、お前。わざわざ散るために咲くのかい?
それとも、散らして欲しいのかい?
まるで、お前みたいだな。香りの強い小さな花。
雨にうたれて、土に散っても。
色がくすんで、カラカラになっても。
きっとお前を、忘れられない。
散り逝くを君にたとえる