あの子が、殺される夢を見た。
鳴り響く警告音。ひしゃげたランスロットのコックピット。包囲された白き騎士。
スザク君はランスロットから地面へと飛び降りる。地にとどろく轟音とともにナイトメアが即座に彼を包囲して、先頭の黒い機体から仮面の男が出てくる。ゼロ。男はマントを翻して、彼にむかって何かを言う。対して彼も何かを叫ぶ。背後に誰かを庇いながら、何も持たずにゼロの前に立ちはだかる。武器なしで戦おうとする。やめなさい、そんな無茶な戦い方。いつだっていつだって貴方って子は。叫ぼうとするけれど声がでない。
ゼロが拳銃をかまえる。
パァンという渇いた音。
私たちの目の前で、スザク君がゼロに撃たれる。彼の右腹を閃光が掠めて、それでも何かを守るように身を乗り出して、だからもう一発、パァン。今度は左胸に血が滲む
私、私達、それをただ呆然と見つめることしかできなくて、それから慌てて走りよる。彼は無垢なまでにきょとんとした顔をして、「あ、」と掠れた声を出す。ゆっくりと身体が倒れていく。
敵の歓声
誰かの怒号
泣き叫ぶ声
崩れ落ちた彼を掻き抱き、怒鳴るように命令を出し、止血のためにパイロットスーツを破いた所で、
目が、覚めた。
なんて夢を見たんだろう。動悸がなかなか治まらない。セシルがデスクから顔をあげてあたりを見回すと時計はとっくに今日を過ぎていて、もう夜明けに近い時間だった。キャメロットの研究室の中。あたりに人影はなく、電源を入れっぱなしにしていた自分のパソコンが静かな機械音を響かせている。珍しくロイドは席をはずしていて、ああ仮眠をとっているのかしらとぼんやり考える。
ああ、夢だった。良かった。
額の汗を拭って、けれどセシルは自分の身体をギュッとを抱きしめた。
彼が、私たちの大事な子供が撃たれたのは、もちろん怖かった。いつも命の危うい戦場に彼を送り出す身だ。何度となく体験した恐怖。だけど違う。この治まらない身体の震えはそのせいじゃない。彼は死ぬんだと思った時、私は心のどこかでひどく安心したのだ。ああ、これでこの子はこの苦しみから開放される。もう誰かから憎まれることも、誰かを憎むことも、ましてや自分を憎み続けることもしなくてよくなるんだ。もう二度と、悲しいカタチで大切な人を失わなくてすむんだって。ああ良かったって、ひどく安心してしまう自分が、いた。
それが、1番、恐ろしかった。
誰からも理解される事なく、けれど甘くてまっすぐで優しい彼を、
その優しい心根のまま、しかし人を殺し、白き死に神と呼ばわれる彼を、
そして多分、己の存在の消滅を願いながら、しかし何度も生き伸び続けなければならない彼を、
もうこれ以上は見ていられない
幇助。何か良くないことを手伝うこと。
例。自殺幇助罪
*080814