ss07 かぐスザ(25話後)


かぐやの『枢木のお兄様』呼び前提

素直になったらどうだ。
首脳会談を終えて帰路を歩もうとしていたかぐやにそう言って背中を押したのは、誰かの小さな手だった気がする。矜持と負けん気を最発動させてキッと振り返った先に立っていたのは魔女だった。拘束衣から解き放たれて、どこか寂しく微笑んでいる少女。
「もう人目を気にせず、しかも相手方にそれと覚られぬようなプライドを守るための言い訳を与えずとも傍に行けるのだぞ」
何を。
こちらを手で静して彼女は笑う。
「少し似ているんだ。私とお前は。だからわかってしまうのだがな。『兄妹』であったのだろう?あれとお前とは」
「どなたのことをおっしゃっているやらわかりませんが」
「聡いお前がか?」
ありえない。魔女はやはり笑う。
「もう敵味方の間柄でもなんでもないんだ」

そうほら、『ゼロ』はお前の夫なんだからな。

「だきついてやったらいい」


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・・・・・走る。

日本の代表者であるその身ゆえ、護衛兵が手を出せないのを。そして、向かう先の相手が決して女性相手には拳をふるわないのを良いことに。かぐやは疾走する。正面から『彼』に飛び込む。

「生きているって、信じていましたわ」
仮面の男。黒い布で全てを覆っている『ゼロ』
「っ・・かぐ」
「もう!新妻のピンチでしたのよ!助けに来てくださるのに二月もかかるなんて、少し遅いのではありません?」

決して振りほどかれはしない腕に力をこめて、仮面の虚空を下からねめつける。
「ねえ、『ゼロ様』?」
一瞬放心したらしい彼は、それから「・・新妻?」とポツリ呟いた。変声機が拾わない、けれどかぐやがギリギリで聞き取れるくらいの小さな声で。
かわらない。ああ、敗戦からこちら、変わってしまったのかと悲しみ、敵国に与したことに憤り、異人のお姫様の手をとったことに嫉妬し、そしてずっと。その存在ごと抱きしめてしまいたかった相手がここにいる。
おかしなはなしね。今この瞬間に確信するのよ。
・・・・彼だわ。


今貴方がどんな顔をして、どんな事を呟いているのかわかってよ。
きっと、こう、こんな感じに眉をひそめて、『ルルーシュ、色んな女の子と仲良くしてたくせに、かぐやにまで手を出したのか!』って。そうね、真っすぐな瞳でぐっと宙を見据えながら、遠くの『あの方』に文句を言っていらっしゃるのね。きっとそう。

かぐやは抱く腕にやんわりと力をこめて、彼の意識を引き戻す。
「申し、ゼロ様」
「・・ああ。なんでしょう『かぐや殿』」
ふふ、下手くそね。『あの方』はもうちょっと不遜な感じに言うわ。顎を軽くあげたりして。
「あのね、」
マント裾を小さく引っ張る。優しい彼は首を傾いでしゃがんでくれる。(そうなの、不器用なくせに優しいの!でもそんなこと、ずっと前から知っていましたわ!)耳があるだろう位置にそっと口づけて、ひそやかに息を吹き込む。
「・・帰って来てくださって嬉しいですわ」
「え?」
仮面の向こうの表情がふと本当に見えた気がして、呼び掛ける言葉を直前にかえた。
ええ、そうね。
彼は『ゼロ様、』ではなく。



「ね、“お兄様”?」



ほら、びっくりしてキョトンとした顔。薄く開く口許
それ、昔と全然かわりませんのね。




















三度目の抱擁












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