ss05 ジノスザ




バラバラに壊れたトリスタンを一瞬見下ろして、それからすぐに僕は飛び去った。
耳に残る懐かしい声。懐かしい声。たった一月聞かなかっただけで、そして今ほんの数瞬呼びかけられただけで、なんて暖かい気持ちになるんだろう。
本気で悲しんでいた。僕のことを。
本当に怒っていた。怒ってくれた。
戻れといってくれた。今ならまだ、間に合うって。
その暖かさに、少し可笑しくなって、それから少しだけ悲しくなる。

もう僕たちは。僕は、戻れないところにいるんだ。


唯一生きていたらしい通信機能を使って、二言、三言、
ジノが僕を呼ぶ声がして、最後にひどい雑音がはいる。それきりで途絶える。

僕の仲間になれなんて。帝国に忠誠を誓えだなんて、ずいぶんと上から物をいったものだ。
きっと君を怒らせた。そんな声で言った。そんな声で言えた。
そう。あれは誘いではなく拒絶だ。
明白な終結と鋭い太刀筋を描く。
僕から君への。最後の拒絶






君を、連れてはいかないよ。

光の中に生きるヒト。
僕は君には触れたりしない。



そのままに飛んでおいき

愛しい蒼
愛しいトリ



















城壁の内側から君の幸せを願う






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