ss01 ルルスザ




「例えばだよ。僕らが今の僕らでなかったとして」
「何だ、それは」
ルルーシュはいつもの調子で少しあきれたように、けれど本心では妙なことを言い出したスザクを心配しながら本をめくる手をとめた。
「だから、例えば。僕は壊された国の最後の首相の息子、なんて面倒なものじゃなくて、君は帝国の皇子さまなんかじゃないんだ。ナナリーは目も足も悪くなくて、君のお母さんも、僕のお父さんも元気で。・・・もしそうだったらって。可能性を考えてしまうことは無いかい?」
「・・・そういう、たとえ話は嫌いなんだが」
ルルーシュが静かに返すと、彼はそうだね、ごめんね、と軽い調子で微笑んだ。
「らしくないな」
かもしれない。そう返しつつもスザクはのんびりと芝生に寝転がり続ける。
「だいたい、今までの過程があるから今の俺があるんだ。そんなふにゃふにゃした世界は所詮まやかしでしかない」
うん。
「もしとかたらとか。言い始めたらとまらないだろ。それよりは未来を考えるよ」
うん。そうだね。

此方を向いた彼は、そう、変わらぬ調子で。


だから、さ

「今がどんな状況であっても。君たちに出会えたことを、僕は誰かに感謝するよ」

今のルルーシュとナナリー出会えたことを。
そう言って、彼はまた笑った。







それが、一年前の話だ。
今目の前にいる『旧友』の彼を見て、ルルーシュは腹立たしげに顔をしかめる。
見てみろスザク。
どうだ。今の俺は皇帝の息子でもなんでもないことになっている。
病気がちでまもってやらねばならない、いや、守ってやりたい最愛の妹はいなくて、ただ傍に『普通』の弟がいるだけ。
平凡な学生。モラトリアムに悩むどこにでもいそうな若者だ。
復讐の意思もない。仇とうらむ親もいない。そういうことになっている。
友達のお前は俺の敵なんかじゃなくて、こうやって暢気に学校にきて談笑なんかして。

これはあいつが。あのブリタニア皇帝が作ったまやかしの世界だ。
まるで。いつかお前が言ったくだらない御伽噺のような。


ふと、スザクと目線があう。

寸の間をおいて、あいつは突き抜けた悲しさを混ぜ込んだように微笑んだ。







・・・・・なあ、スザク。
あの時、その可能性の向こうにお前が夢想したのは、

いったいどんな世界だったんだ?


















それでもそれらは愛しき日々





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