ss03 スザユフィ
気のふれた虐殺皇女。
あきらかな非人道的行為を忌避したのは何も被害を受けたものたちだけではなかった。彼女の名前は、日本の地では負の感情の楔にされ、祖国ブリタニアでは糾弾の矛先を逸らす道具として葬られた。名前だけじゃない。遺品も姿絵も写真も賛辞もみんな全て、どこか彼方へと追放された。
まるで、彼女の存在ごときりとってしまったみたいに。
密やかな険しい口調で、また時には激しい憎しみの感情とともに君の名は呼ばれるけれど、僕の心には何一つ響かない。だってそうだろう?皆知らないんだ。その時の君がどんなに純粋に、どんなに真摯に、世界というものの平和を願っていたか。一括りにすることなくして、一人一人の痛みや悲しみを憂いていたのか。皆知らないくせに、好き勝手に君を罵るんだ。けれど僕は知っている。僕だけが知っている。
間違っていたのはユフィ、君じゃない。
時々、時々君の姿を見る。大丈夫、おかしくなっているわけじゃないよ、ただふとした瞬間に思い出すんだ。夢はあまりみないほうだけど、たまに夢にも見てしまう。君はいつも笑っていてふくれていて驚いていて楽しそうで、でも、ときどき泣いている。ごめんね、これは多分僕のせい。人をにくんだりけなしたりもしない君は、心の強い君は、誰かを恨んで泣いたりなどしないのに。君を理解し得ない世界に未練がましく怒りや恨みをぶつけているのは、だから僕だ。
・・ああ、ユフィ。
だけど僕は怖いんだ。
最近君の顔がよく見えない。記憶のおくの君の声が、よく聞こえない。触れてくれた手のぬくもりを、腕のあたたかさを、瞳の輝きを、やわらかい髪の匂いを、すぐに思い出せないことが、あるんだ。君からもらったものは、全部全部全部、しっかりとこの腕に抱きしめているのに。いたいのに。
ふりかえる君の姿が、段々光に包まれていく。
しろく、しろく、暖かい霞に。
―――ユフィ。
僕は、できる限りの速さでこの道を行こう。
地位と権利を手に入れて、君と追った夢をかなえよう。
君の残してくれた宿題を、少しでも早く終わらせよう。
だってそれまで、僕は死ぬわけにはいかない。何もかもを投げ出すわけにはいかないから。
だから、待ってて。この道の終わりまで、あと少しだけ待っていて欲しい。
全て、全てを終わらせて、僕がそちらに向かうまで。
・・・わがままを、君に言うよ。
どうか、思い出の中の君だけでも。
僕の側から、離れないでくれ。